歯肉癌を疑わせた垂直性歯根破折を
意図的再植+歯周組織再生で保存した 1 例
要旨:右上顎第一小臼歯部に生じた出血性腫瘤が悪性腫瘍(歯肉癌)を強く示唆したが、病理・画像所見・臨床経過を総合して分離型垂直性歯根破折(VRF)に起因する反応性エプーリスと診断。破折片の接着修復および意図的再植術、さらに歯周組織再生療法を併用することで自歯を温存した。術後4か月で臨床症状は消失し、X線/CBCT上で骨再生傾向を確認した。
Case at a Glance(概要)
| 患者 | 40代 女性 |
|---|---|
| 部位 | 右上顎第一小臼歯 |
| 主訴 | 同部の腫脹と自発痛、出血性腫瘤 |
| 既往歴 | 特記なし(喫煙歴なし) |
| 現病歴 | 6か月前に補綴物脱離。他院で抜歯を勧められるも保存希望にて当院受診。 |
| 初診所見 | 歯肉に赤色〜易出血性腫瘤(エプーリス様)。動揺・咬合痛あり。 |
| 画像所見 | パノラマ/CBCTで歯根周囲の骨吸収。破折線を疑う像。 |
| 鑑別 | 歯肉癌、外歯瘻、エプーリス、慢性化膿性歯周炎、VRF |
| 最終診断 | 分離型垂直性歯根破折(VRF)に伴う反応性エプーリス |
| 実施治療 | 切除生検/破折片接着修復/抜歯窩掻爬・再生材料填入/意図的再植/固定 |
| 通院回数 | 術前検査1〜2回、処置当日1回、術後経過観察数回 |
| 転帰 | 術後4か月で疼痛・出血消失、骨再生傾向 |
臨床所見・画像所見
視診:腫瘤は赤色・易出血性で、潰瘍を伴い歯肉癌を強く示唆。
触診:可動度軽度〜中等度、圧痛あり。
画像:パノラマ/CBCTにて歯根周囲骨吸収。破折線を疑う低輝度帯を複数断面で確認。
診断と治療方針
- 最終診断:分離型垂直性歯根破折(VRF)+反応性エプーリス
- 治療方針:①腫瘤切除・掻爬 ②破折片の接着修復 ③意図的再植 ④歯周組織再生療法 ⑤適切な固定と感染管理
治療の実際
- 切除生検・腫瘤摘出:腫瘤を切除し病理検査へ提出(悪性所見なし、反応性病変)。
- 抜歯(意図的再植の前提)と破折片の同定:破折線と完全分離片を確認。
- 破折片の接着修復:マイクロ下で破折面を整え、接着・封鎖を行う。
- 抜歯窩の掻爬・洗浄:感染肉芽の徹底除去。
- 再生材料の填入:骨欠損部に再生材料を補填(使用材料は症例により選択)。
- 再植・固定:歯を元の位置へ戻し、隣在歯とスプリント固定。
- 術後管理:鎮痛・消炎、洗口、咬合コントロール。1–2週後に創部評価。
術後経過と転帰
術後4か月:自発痛・出血は消失。歯周状態は安定。
パノラマX線およびCBCTで骨再生傾向と透過像の縮小を確認。動揺は生理的範囲へ。
考察
本症例では、完全分離型VRFの微小な動揺が歯根膜を慢性刺激 → 反応性エプーリスとして出現し、臨床的に悪性腫瘍と酷似した。鑑別には病理・断層画像・臨床経過の統合が不可欠である。
治療は破折片の接着修復を行ったうえで、意図的再植と歯周組織再生療法を併用し、刺激源の除去と封鎖、再植床の再生環境最適化を図った。術後短期で症状消失と骨再生傾向を得ており、自歯温存の選択肢として妥当と考えられる。
限界:再破折・感染・外部吸収・強固な癒着などの合併症リスクはゼロではない。長期は咬合管理と定期的な画像フォローが必須。
患者さんへの説明と同意(抜粋)
- 抜歯・インプラント等の代替案を含め、利点・欠点を事前に説明。
- 意図的再植術の成功率は症例依存であり、再治療や最終的な抜歯の可能性もあること。
- 術後は咬合力のコントロール・清掃指導・定期検診を継続すること。